今も昔も人気のある初級者向けの教本、ブルグミュラー25の練習曲。発表会の定番曲もたくさん含まれ、最近はブルグミュラーの名を冠した彼の作品が課題曲であるコンクールもでき、さらに人気が高まっています。教材としての価値と、この曲集を通してどのように表現の技術の向上につなげていくかのヒントをお伝えします。
ブルグミュラーは人の名前
バイエル、ハノン、チェルニーなど
教本や練習曲集の本に書かれてあるカタカナがそれらを作った人の名前だと
子どものころ知らなかった人は多いのではないでしょうか?(笑)

本の名前だと思ってた~
ブルグミュラーもその一員で「本の名前」ではなく「作曲者の名前」です。
⇐ヨハン・フリードリッヒ・フランツ・ブルグミュラー(こんな人)
1806年ドイツ生まれ。
パリで活躍しサロン音楽やバレー音楽などの作品を残しています。
メンデルスゾーン(1808年生まれ)、ショパン、シューマン(1810年生まれ)、リスト(1811年生まれ)と同世代でロマン派に属する作曲家です。
ヨーロッパでは早逝した弟、ノーベルトの方が作曲家としての評価が高いようですが
日本ではこの「25の練習曲」のおかげで兄の知名度がダントツ高くなっています。
(「25の練習曲」ほどポピュラーではないですが「18の練習曲」と「12の練習曲」もあります。)
25の練習曲の難易度
「25の練習曲」という名で流通していますが正式には
「ピアノのためのやさしく段階的な25の練習曲——小さな手を広げるための明解な構成と運指 作品100」
というとても長いお名前です(笑)
「やさしく」という言葉も入っているだけあってそれぞれの曲は短めで
比較的演奏は容易な初級程度になっています。
バイエルなどの導入教材が終わった後
チェルニー30番やソナチネアルバムの前段階として使用されることが一般的です。
おすすめの楽譜を2つご紹介します。
非常に良心的なお値段!でも内容はとても充実しています。曲や練習ポイントの解説もとってもわかりやすいです。
充実した解説と、原典版のアーティキュレーションに加え調性、和声の分析も記載されています。本格的に勉強したい人にお勧め。値段もお手ごろ。指導者の方は持っておくべき版だと思います。
ではこの練習曲集で何を学ぶことができるか具体的に見ていきましょう。
25の練習曲で学べる事
初級で身に着けるべき基本的な技術
初級段階で身に着けるべき以下のテクニックを学ぶことができます。
それぞれのテクニックを練習できる曲の番号も併記しておきます。
- テンポの変化(ほぼすべて)
- 音階(5,6, 25)
- 重音(4)
- ターン(8)
- スタッカートとレガート(アーティキュレーション)の弾きわけ
- 片手でメロディと伴奏 ( 7, 13 ,19)
- 和音(15,19, 23)
- 分散和音(7,11,21,24)
- 同音連打(17)
- 跳躍(14)
- 前打音(10)
- 両手の交差(24)
えんてくん
いろんなテクニックを学べるんだね。
楽曲分析の入門として
全曲が1~2ページで収まる長さで構成もわかりやすく調号も少なめです。
和声も比較的単純なので楽曲分析の入門としても最適です。

どこでどう転調しているかを考えたり
和音番号やコードネームを楽譜に書き込んでみると勉強になるわよ。

終止形の弾き方、不協和音の解決の仕方などハーモニーの動きを知ることで表現の幅が広がりますよ。
表現力
練習曲と銘打ってはいますが
ブルグミュラーはハノンやチェルニーのような技術偏重ではなく
曲想や情緒を育てることを大切にしています。
一概に表現力と言ってもまず楽譜から何を表現すればよいのかを読み取る必要があるので
以下のことをヒントにそれぞれの曲、それぞれの部分をどう弾きたいかイメージを持ってみましょう。
- タイトル
25曲それぞれに表題がついています。
原題のフランス語の訳し方が版によってそれぞれなので日本語の題名が楽譜によって違ったりもしますが
タイトルから想像力を働かせて具体的にイメージをしてみましょう。パウゼちゃんストーリーを作ってみるのも楽しいよ~
- 指示・発想記号
テンポや強弱の指示、発想記号の意味を調べましょう。
記号や語句の意味を知ることは作曲者の意図を知るうえでとても大切なことです。そしてなぜそう書かれているのかを考えましょう。
なぜこの曲はAllegroなの?
なぜここはfなの?
なぜここにアクセントが書いてあるの?
なぜここでrit.するの?
なぜここはdolceなの? などなどえんてくんブルグミュラーが書き残したヒントから具体的にどういう音色や表情で弾けばいいかが見えてくるよ。
- アーティキュレーション
スラーやスタッカート、音の長さなどを正確に弾くことによって
浮かび上がってくるキャラクターがあります。
なぜそういうアーティキュレーションになっているのか考えてみましょう。たすてちゃん書かれてあるのと違う弾き方もして
比べてみるとよくわかるかもしれないわね。 - 和声の進行
先ほど楽曲分析したことを演奏に生かしましょう。
転調してどう雰囲気が変わったか
前の和音からエネルギーがどう変化しているか(増加しているのか減少しているのか)
を感じ取ってください。
表現とテクニックの連携
ソルフェージュのように単に音とリズムを正確に読むというだけではなく(それも大切ですが)
楽語や和声についての知識を得、書かれてあることから作曲者の意図を楽譜から読み取ることが大切です。
読みとったことをどのような音色や音量、重さ、バランス、スピード感などで
表現すればよいかをイメージする
⇩
そのイメージを実現するためにテクニックが必要
になってくるので
単に速く指を動かせるようにするとか、大きい音量で弾けるようにタッチを強くするのではなく
表現のために必要なテクニックの選択肢を増やしていくことが技術を磨くということなのです。
ブルグミュラーの25の練習曲はテクニックと表現の結びつきが非常にわかりやすい曲集です。
テクニックと表現を連結させることをこの曲集で学び
さらに難しく複雑な曲を学習するときにもテクニックだけにとらわれず
何を表現したいのかということを常に自分に問いかけながら
音楽に真摯に取り組む姿勢を持っていただきたい思います。
