ピアノ学習者がまず最初にあこがれるブルグミュラーのアラベスク。練習曲なので技術の向上を図ることが目的の一つではありますが、楽譜に書かれていることをどのように解釈して一つの音楽作品として演奏するか、ということを学ぶためにもとてもよい教材です。今回から「解釈編」と「技術編」の2回に分けて徹底解説します。
まずは楽譜を見渡そう
知らない言葉、記号はありませんか?
楽譜に言葉で書かれている指示、順番に書いてみますと
(複数回出てくるものは1度だけ書いています)
leggiero
simile
cresc.
dim. e poco rall.
in tempo
dolce
ten.
risoluto

短い曲なのに結構あるね~
記号もあちこちにありますね。
この曲を弾くレベルの人であればp、f、>の記号の意味はわかるかと思いますが
sfは知ってるかな?
ピアノで弾き始める前にまずはこれらの言葉と記号の意味を調べましょう。
どのように弾くことを作曲家が求めているかを知る大きな手掛かりです。

面倒がらずに楽譜に調べたことを書き込むことが大切よ

強弱の範囲をチェック
この曲の強弱の指示は
最弱はp、最強はf
です。
その範囲でクレッシェンドしたりディミヌエンドするということを頭に入れておきましょう。

準備はできましたか?
では曲の最初から楽譜を読み解いていきましょう
徹底解説します
(番号は譜例の書き込みと対応しています。)
冒頭の指示・拍子
曲の最初にはその曲全体のテンポやキャラクターを示す言葉が書かれています。①
この曲ではまずテンポとしては
Allegro 速く ですね。
152は原典版の数字、( )の中は校訂者の推奨するテンポです。
ずいぶん差がありますが概してこの25の練習曲の原典版のテンポは速すぎるきらいがあるので
個人的にも( )の中のテンポを目安にされることをお勧めします。
そのあとに scherzando と書かれていますがこれは
おどけて、とか、たわむれるように という意味です。
曲全体をおどけた感じで弾くように指示がある、
では最初の左手の和音のスタッカートはどのように弾いたらよいでしょうか?③

スタッカートは「切る」という意味の記号だけど
どれぐらい短くするか、やわらかく切るか、鋭く切るかなどはその場その場の曲想で変わってくるから、どう切るかをいつも考えないといけないよ。
先ほど挙げた楽譜ではくさび形のスタッカーティッシモですが
点のスタッカートで書かれている版もあります。
いずれにせよscherzandoのキャラクターを出すため、そしてpの指示もあるので
やはり短めの歯切れ良いスタッカートがよいでしょう。
拍子記号にも注目してください。
この曲は4分の2拍子。
マーチの拍子です。
そのあとに続く左手の和音のスタッカートも同様に歯切れよく切って
きびきびと行進曲風に演奏するとよいと思います。
10小節目(最初の2かっこ)まで
3小節目から右手が加わってきます。④
再びpと書き直されているので右手が入ることで音量が増さないようにしましょう。左手を前2小節より控えめにして右手とのバランスを取り両手になってもpの雰囲気を保ってください。
3小節目から点のスタッカートで書いてある楽譜もあります。
しかしその違いを厳密に出すことはこの曲ではあまり意味ある事とは思えません。
音色や切り方はそのままで右手とのバランスをとるために音量が下がるだけ、ぐらいに考えるとよいでしょう。
3小節目には leggiero (軽く)という指示もあります。④
右手の16分音符のモチーフはスラーで5つの音が結ばれてもいますので⑤
軽やかに、なめらかに、5つの音をひとまとまりに感じて弾きましょう。
5小節目からcresc.が始まります。⑥
音域が高くなるとともにクレッシェンドするわけですが
16分音符一つ一つを大きくしていこうと頑張るより
小節の最初の音を階段のように強めていくと
2拍子の拍子感と、スラーで結ばれている音型のまとまりを保ちながら
効果的なクレッシェンドをすることができます。(22,28小節目のcresc.も同様)
7小節目 ここでイ短調からハ長調に転調します。⑦
明るくなった響きを味わってください。
8小節目 右手2拍めの>(アクセント)。⑧

これはなぜついているのかしら?
通常2拍子の2拍めは弱く軽い拍ですが、この音は次の1拍目とタイで結ばれています。
そのことで次の小節の1拍めにあるべきだった強拍がこの音に移ってきています。
シンコペーションにしてリズムを面白くしていることを示してほしいのでここに>をつけているわけです。

なのでこの>は大切に弾いてくださいね。
1かっこの2拍めにはsfがあります。⑨
(>も一緒に書いてある楽譜や>をデクレッシェンドとみなして書いてある楽譜もありますが、ここではsfについて考えてみます。)
sfはその記号がついている音を特に強く、という意味の記号です。

ではこの音はどうして特に強く弾いてほしいの?
先ほども書いたように7小節目からハ長調になっていましたね。
せっかく明るくなっていたのにこの1かっこの2拍目で打ち返されて
また出発点のイ短調に戻ってしまうわけです。
打ち返して最初に引き戻すエネルギーがこの音に必要なのです。

そう考えるとこのsfの存在も納得して弾けますね。
2回目は打ち返されず無事すり抜けて2かっこに入り
ハ長調で終止することができました!

良かったね~(笑い)
右手のオクターブの跳躍の2音はスラーがかかっていますね。⑩2音のスラーでは初めの音に重さがあり後ろの音は軽くなります。
そう弾くことで2音のまとまりとつながりを
たとえ手が小さくてオクターヴが届かなくても聴かせることができます。

このことはどんな曲を弾くときでも忘れないで!
音楽的な演奏には欠かせないよ!
12~19小節
12小節目から2小節単位のフレーズが繰り返されます。⑪
イ短調のVーⅠの和音の進行を考えると1小節目の方にフレーズの重心があります。
12小節目で開いて13小節目で閉じる(14~15小節も同様)イメージ。
スラーが1小節ごとで切れていますが、音をぶつぶつとスラーの切れ目で切るのではなく
文節のまとまりのように感じながら弾くとよいと思います。
16小節目にはまた>がありますがこれはなぜでしょう?⑫
2回同じモティーフが繰り返されましたが、3回目は1オクターヴ跳躍します。
その音程のエネルギーと、IV度調のVの和音で一瞬ニ短調に転調する緊張感が相まってのアクセントです。
その高い音とハーモニーに至るテンションと、開放感をよく感じて弾いてください。
18小節目には dim. e poco rall. と書かれています。⑬
dim. はdiminuendo の省略形で「だんだん弱く」
e は 「そして」。poco は 「少し」
rall. はrallentando 省略形で「だんだんゆっくり」
20小節目から戻ってくる最初のテーマを準備するように緊張感とテンポを緩めてください。
再現、そしてコーダ
20小節目で最初のテーマが再び現れます。
in tempo(テンポ通りに)と表示があるので⑭、すぐに元のテンポとキャラクターに戻してください。
22~23小節目でcresc.をかけたら
24小節目で突然pになります。⑮
23小節目は最後の音までcresc.の気持ちを保って、pのための用意をしないようにしましょう。
前半では(7小節目)ハ長調に転調しましたが24小節目ではイ短調のままです。
急なp、そしてdolce(甘く、やわらかく)と強弱や表情を変える指示によって
その前半との響きや雰囲気の違いがより際立ちます。
十分にこの指示を表現してくださいね。
25小節目⑯のアクセントは8小節目の⑧と同じ意味合いです。
楽譜によってはこの音にten.も併記されています。
記号ではよく見かけるテヌートです。
その音の音価分音を十分伸ばしてということですが
長さをきちんと保つだけでなく、その音を大切に丁寧に弾くと考えるとよいと思います。
そしていよいよ2かっこからコーダ。
最初のモティーフで駆け上がりながらクレッシェンドで盛り上がり
31小節目のrisoluto(決然と、きっぱりと)⑰と最後のsfでかっこよくドラマティックに終わりましょう。

ポジション移動が大きくて大変だけどテンポを遅らせずにバシッと決めよう!

たった1ページですが表現すべきことがたくさん詰まっている曲です。
次の「技術編」ではこれらのことを表現するためにどのようなテクニックを使うのか、
そしてどのような練習をしたらよいのかを解説しますね。
YouTubeでの解説はこちら
